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「コンフィデンスマンJPロマンス編」に見た面白さードラマ版の思い出を添えてー

「コンフィデンスマンJP」は2018年にフジテレビ系列で放送された長澤まさみ主演の「信用詐欺師」をテーマにしたTVドラマである。その後劇場版が公開されたが、今回はその劇場版の第1作目「ロマンス編」を見たときの感想を書こうと思う。

「コンフィデンスマンJP」は今でこそ好きなシリーズとなっているのだが、TV版の第1話を見たときの心象は全く違ったものだった。まずはそのへんのことから書こうと思う。結果的にそっちのほうが長くなっちゃったけど。

「コンフィデンスマンJP」TV版の思い出

絶望の第1話

「コンフィデンスマンJP」の本放送が始まったときに「詐欺師もの」ということで「まあ『ハズレ』ということもないだろう」となんとなく見始めた。

ただ、正直なところ第1話は個人的には全くおもしろくはなかった。オープニングで1発目の「だまし」があるのだが、あまりにも規模が大きく、さらに「スティング」をイメージしたと思われる展開ではっきり言って冷めてしまった。

更に追い打ちをかけたのは、コンフィデンスマンJPの代名詞と言っても良い「コンフィデンスマンJPの世界へようこそ」のシーンがもう見ていてムズムズしてしまって「これを日本のドラマで本当にやるのか」と完全においていかれてしまっていた(完全に「オーシャンズ」の偽物)。

せっかくなので最後まで見たものの、第1話のターゲットの赤星を騙すギミックもオープニング同様に規模が大きすぎて「やっぱいいかな」と正直なところ思っていた。

しかし状況が一変する。

「癖になってきませんか」というエンディングナレーション

第1話とは不幸な出会いをしてしまったのだが、一応詐欺師ものだし、どうやって騙すのかを見ていればある程度面白いかと思いその後も見続けていた。

そして運命の第3話

小手伸也のいい声でなされる次回予告のナレーションで「どうですか?このドラマ癖になってきませんか?」と言われて「確かに癖になっているな」と不思議と納得してしまった。

第2話以降極端に大規模な騙しではなくなったことも良かったのかもしれないが、第1話で感じた不満はいつの間にかなくなって、知らないうちに癖になっていたわけである。これもコンフィデンスマンたちの騙しだったのだろうか。

何れにしても、一度自分がハマっていることに気がついてしませば後はドラマを楽しむだけである。

結果的にどれも面白かったのだが、個人的には第6話と第8話がお気に入りだった。

個人的傑作選

第6話「古代遺跡編」

第6話のターゲットは内村光良演じる斑井満(まだらいみつる)。彼はアメリカ帰りの敏腕経営コンサルタントだった。今回は「ぼくちゃん」の自分探しの旅をきっかけに、斑井が請け負っている建設工事をストップさせるのが目的だった。

ダー子がとった作戦は、斑井の幼少期の思い出を利用し、工事現場から縄文の遺跡が出土したと思わせることだった。

斑井の父はアマチュアの考古学者で、幼少期の斑井は父の「発掘」に度々ついていっていたのだが、父が残した借金と全く売れることのなかった著書「幻を求めて」の処理に苦労した斑井は考古学そのものを憎んでいた。

ダー子の作戦で縄文土器が出土したことにいっときの喜びを覚えた斑井だったが、結局はフェイクであったことが明るみになり、斑井は建設を再開する。

困ったダー子は斑井の父の著書「幻を求めて」に斑井攻略の糸口を見言い出す。

ダー子が行ったことは唯一つ。斑井に「幻を求めて」全18巻を送りつけることだった。「幻を求めて」を全巻読破した斑井は、その胸の内に隠していた考古学への情熱を取り戻し、ダー子が1億で購入していた山をなんと3億で購入した。遺跡が偽物であることを知っていながら。

斑井は考古学の持つ根本的な欲求である「探すことそのものに対する欲求」を取り戻し、今日も遺跡を求めて穴を掘る。


第6話は大体こんな話だった。この話では「騙す」ということに関しては基本的に失敗している。しかしながら「考古学とは『探す』という行為そのものにとりつかれること」という考古学の描き方が個人的には気に入っている。

何かをするときに我々はその意味を説明しようとしてしまいがちだが、本当はその行動そのものが楽しいのであって、本当は理由なんてないのだよ。特に金が動かない場合は。

第8話「美のカリスマ編」

第8話「美のカリスマ編」ターゲットはりょう演じる美濃部ミカ(みのべみか)。彼女は美容クリニックなど美容関連の会社をいくつも経営する実業家であった。

ことの発端はリチャードが通っていたメンズエステのエステティシャン福田ほのか。彼女は自らの体重管理がミカの基準を満たしていないことを激烈に責め立てられ、退職するとともに引きこもってしまう。リチャードはその窮状に同情して、日常的にパワハラを行っている美濃部ミカを打倒することを決意する。

ダー子が最初に立てた作戦は失敗するが、ダー子はすぐさま次の作戦を立案する。

ダー子は大沼秀子という山形から上京してきた女性を偽ってミカと接触し、秀子が日常的に利用している謎の化粧水「弁天水」をその脳裏に刷り込む。

大変に美しい容姿を持つ秀子の化粧水に興味を持ったミカは秀子のふるさとを訪れ、そこでミカは弁天水存続の危機を知ることとなる。本来の作戦ならそこでふるさとの山ごとミカに購入させるはずだったのだが、ミカの反応はダー子の想像を超えていた。

ミカはダー子を自らが主催する美人コンテストに出場するように打診する。ミカはそこで名を挙げればふるさとの窮状を打破できると考えた。

結果的に秀子(ダー子)はコンテストで優勝してしまうが、そこでダー子は美濃部ミカという1人の女性がその内に秘めた強大な覚悟に気がつくことになる。

結果的にダー子やリヤードの思惑と全く異なる形でミカはその職を辞することになる。

自らの立場を失ったミカだったが、それでもなお美を追求するその姿勢を失うことはなかった。そしてその姿にコンフィデンスマン達は安堵した。


第8話はだいたいこんな話だったと思う。「古代遺跡編」と通底しているのは、人の熱情だろうと思う。今回のターゲット美濃部ミカは「女性は美しくなければならない」とか「美とは女性のもの」という古くから女性にかけられた「呪い」との真っ向勝負を仕掛けた人物である。

男だろうが女だろうが、別に美しい必要はないしスタイルが良い必要もない。そもそもスタイルに良し悪しはなく、ただそれぞれのスタイルがあるだけである。美しさも同様で、それぞれの姿あるだけである。

しかし美濃部ミカはそういう態度はとらず、「美しくあらねばならぬという呪いがあるのなら、すべての女性を美しくする」という到底実現可能とは思えない戦いを挑んだ。そもそも「美しさ」などというものは相対的なものなので、どうあがいても彼女の戦いに勝利はないような気もする。それでも美濃部ミカはその戦いを挑み、それ決してやめることはなかった。

そんな美濃部ミカの姿に胸を打たれたような気がする。もっと必死に生きなくてはならない。

以上のように第1話の絶望的な出会いとともに始まった「コンフィデンスマンJP」だったが、結局はとても好きな作品になった。このような状況下で一発目の劇場版の何を面白いと思ったのか。

皮肉なことに、全ては第1話に戻ることになる。

「コンフィデンスマンJPロマンス編」の面白さ

「コンフィデンスマンJP」の記念すべき最初の劇場版は「ロマンス編」と銘打たれたものだった。結果的にはこの「ロマンス編」という副題そのものがフェイクになっていたが、大事なことは一体誰が騙されたのかということである。

結果的に騙されたのは、TV版第1話のターゲット赤星だった。

もちろん途中はとても面白かった。本当に面白かった。

でも途中の面白さを完全に凌駕してくれたのが、結果的に赤星が騙されたという事実そのものだった。物語のラストでダー子が赤星に送った手紙の内容は次のようなものである:

愛しの愛しの赤星栄介様

今回のデートもとっても楽しうございました。

私のことをこんなに夢中に追いかけてくれる人なんてあなただけ。

でもちょっと心配。

あなたはお人好しすぎる。

今回も仲間選びを間違えたわね。

そんなに簡単に人をしんじちゃダメよ。

またお金が増え過ぎたらいつでも呼んでね。

デトックスしに行ってあ・げ・る♡

あなたの心の恋人、ダー子より

この手紙の文言を知ったときに私が思ったことは2つである。

正月映画になる

ダー子の手紙の文言を知って最初に思ったことは、「この映画は正月映画になる」ということだった。

つまり、劇場版の「コンフィデンスマンJP」は赤星が一年かけてめちゃくちゃ悪いことをして溜め込んだお金をダー子がすべて持っていくというものにできるのではないかということ。そして、そういう作品になってほしいという願いだった。

これは「男はつらいよ」シリーズと同じ構造を持っているということでもある。

「男はつらいよ」では主人公寅さんが必ず誰かに恋をして、それが叶わずに終わるけである。でも、「寅さん何やってるんだよ」という心のツッコミと共感によっていつまでもいていられる作品になっているわけである。

「コンフィデンスマンJP」も「赤星何やってるんだよ」という毎回のツッコミと「女に騙される喜び」という共感によって成立する映画になるのではないかと思った訳である。

今後「コンフィデンスマンJP」がどうなるかわからないが、可能な限り続いてほしいと思うし、延々と赤星はダー子に騙されてほしいと願っている。

赤星がルパン、ダー子が不二子

私が「ロマンス編」を見て思ったもう一つのことは「そうか!赤星がルパンでダー子が不二子なんだ!」ということであった。

コンフィデンスマンJPの主要登場人物は

  • ダー子:長澤まさみ
  • ぼくちゃん:東出昌大
  • リチャード: 小日向文世
  • 赤星栄介:江口洋介

だと思うが、少なくとも「ロマンス編」が作られた段階で、「とんでもない実力を持ちながらダー子に騙される赤星」と「とんでもない実力を持つ赤星を見事に出玉に取るダー子」という関係性が明らかになるとともに、TV版第1話からの因縁は終わることがないということが確定したのだと思う。

これって俺たちがよく知ってるルパンと不二子の関係と概ね同じと見て良いのではないかと私は思ったわけである(もちろん異論はあるだろう)。

ただ、そういう視点に立つと、「ぼくちゃん」と「リチャード」はそれぞれ「ルパンになろうとしている男」と「ルパンになれなかった男」に見えてくるわけである。

基本的に「コンフィデンスマンJP」という作品で「ダー子」という才覚には誰も太刀打ちが出来ない。熟練の詐欺師であるリチャードも同様である。

このような世界観で唯一ダー子に対抗できるのが赤星という存在に思えてならない。

しかし彼はルパンである。別にダー子に勝ちたいわけではない。「ダー子」という沼にハマってしまった男の1人である。

そんなルパンが代表してくれる「男の悲哀」を江口洋介演じる赤星が表現してくれているのではないだろうか。こういうことを考えさせてくれたことが「ロマンス編」の好きなところである。

今後「コンフィデンスマンJP」はどうなっていくのだろうか?