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映画「護られなかった者たちへ」のあらすじと感想(ネタバレあり)

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映画「護られなかった者たちへ」は中山七里による同名小説を原作とした2021年に公開された瀬々敬久監督による映画作品である。

基本的には「犯罪ミステリー」に分類されるものであるが、発生する事件や登場人物の背景にあるのは「3.11」+「生活保護」である。

その直接的な題名もあり、どうも「説教臭さ」を感じたため、この映画の存在は知っていたもののず~っと見ずにいた。実際映画は一方的な見方(公務員批判)が通底しているように思われ、途中までは想像を超えるものではなかった。

しかし物語の終盤近く、緒形直人演じる城之内猛の台詞によって一気に映画になったと私は感じた。

今回はそんな映画「護られなかった者たちへ」のあらすじを振り返りながらその感想をまとめようと思う。ただ、あらすじと言っても全部話してしまうので、ネタバレが嫌な人は途中まで読んで本編を見てください

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護られなかった者たちへ」のあらすじ

事件発生

物語の中心人物は利根泰久(とねやすひさ)。彼はかつてとある「放火事件」を起こしていた。罪を犯した利根であったが、模範囚だった彼は出所し、保護司のつてで職を見つけることができていた。

それと時を同じくして、仙台市内のアパートで拘束された遺体が発見される。被害者は仙台市内の保健福祉センターで生活保護担当する職員 三雲忠勝(みくもただかつ)、身動きが取れない状態にされていた被害者の死因は「餓死」であった。

事件を担当する刑事 笘篠誠一郎(とましのせいいちろう)は相棒の蓮田(はすだ)とともに「生活保護」の申請に関連する怨恨の線で捜査を開始する。

その捜査の中で、笘篠は三雲の部下であった円山幹子(まるやまみきこ)とであう。現在はケースワーカーとして働く彼女は、その職務に誠実で不正受給を恨んでいる。笘篠と蓮田は彼女の仕事に付き添い「生活保護の実情」を垣間見ることとなる。

そんな折、市内の農具小屋で拘束された遺体が発見される。被害者は仙台福祉連絡会の副理事 城之内猛(じょうのうちたける)。死因は三雲と同じ「餓死」であった。

城之内と三雲はかつて同じ福祉保険事務所で働いていたことが判明。捜査方針は「生活保護」にかかわる怨恨の線で固まることとなった。笘篠と蓮田は三雲と城之内が関わった生活保護却下事案の調査を始める。

笘篠と蓮田は福祉保険事務所でかつて発生したトラブルを調べ上げ、それに関わった生活保護却下事案の資料を入手。そのうち一人の女性は放火事件を起こした男の知人であった。その男こそ、利根泰久であった。

警察本部は利根を容疑者として手配する。

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利根の過去

警察が賢明に利根を追う中、円山の前に利根が現れる。

利根と円山はともに震災の被害者であり、同じ避難所で出会っていた。また、遠島けい(とうやまけい)という老婆とも知り合った三人はお互いに助け合いながら日々を過ごし、結果的に遠島の家で三人力を合わせて生活をしていた過去があった。

利根や円山にとって、その日々はかけがえのないものになっていた。

就職のためい遠島の家を出た利根が久方ぶりに戻ると、そこには食事もまともにできない状況に陥った遠島の姿があった。彼女には「生活保護」という選択肢も存在していたが「国に頼りたくない」という思いが彼女に申請を躊躇させていた。

それでも利根と円山の賢明の説得に応じた遠島は生活保護の申請を決意する。

保険事務所を訪れた三人。その事務所にいたのが三雲と城之内であった。

結果的に生活保護の申請が通り、利根と円山は安堵するのであったが、事態は急変。生活保護を受けていたはずの遠島が「餓死」という最後と遂げる。

この事実に激昂した利根は、保険事務所で三雲と城之内に詰め寄った。彼らからは「遠島本人が辞退した」という事実のみが伝えられた。

実際に発生したことは以下の通りである:

保険事務所は、遠島にはかつて里子にだした娘がいたことを突き止める。扶養可能なものがいるということで、保険事務所は遠島にその娘に生活の支援を打診するよう要求した。娘と言っても幼少期からあっておらず、娘本人は育ての親を実の親のように思っていた(娘本人も生みの親はすでになくなったと聞かされて育った)。そんな娘に迷惑をかけてはならないと思った遠島は「生活保護の辞退」という決断をくだした。その選択肢を遠島に提示したのは三雲と城之内であった。

実際に発生したことを細かくはしらない利根であったが、遠島を火葬したそのよる、彼の怒りは「保険事務所の放火」という形で表出することになった。

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思わぬ結末

警察も過去の事件やその裏にあった利根の人間関係を探り出し、遠島の死の恨みを今度は殺人という形で晴らしているという見込みであった。

そして、保険事務所で遠島を最初に担当した上崎岳大(かみさきたけひろ)が次のターゲットになると考えた警察は、彼の周辺の警備を行う。このとき上崎は「社会福祉の充実」を掲げる国会議員となっていた。

講演会を終え、会場を後にする上崎の前に利根が現れた。上崎に詰め寄る利根だったが、瞬く間に警察に取り押さえられ「公務執行妨害」で逮捕される。しかも利根は「上崎に自ら犯したことを公に謝罪すること」を求める以外素直に自白をし、事件は解決したかに見えた。

だが笘篠は、ただ一人その状況に納得していなかった。

捜査を続ける笘篠は上崎や遠島けいの娘に会い、「生活保護辞退」の真相を突き止めた。その事実を伝えられた利根も事実を知ることとなる。

それと時を同じくして上崎が姿を消す。その一報を受けとった笘篠はすべての真相に気がつき利根に詰め寄った。上崎への謝罪要求は、それを見れば真犯人が強行を止めてくれるであろうという利根の願いから出たものであったことが明らかになる。

上崎の居場所の心当たりを聞く笘篠。利根は笘篠と蓮田を遠島の家に案内する。そこにいたのは上崎を拘束した円山だった。

利根は懸命の説得を試みる。最終的に円山の心を動かしたのは、遠島が死の間際にふすまに書き残した「おかえりなさい」という言葉であった。その言葉を目にした円山に一瞬できたスキに円山は利根と笘篠に取り押さえられた・・・。

蓮田は円山がSNSに残した文章を発見する。そこには生活保護の最前線で懸命に働くものの思い、この世界の美しさ、そして「声を上げること」の意味が語られていた。

円山幹子がその人生をかけて残した文章は「護られなかった者たちへ」と始まっていた。


以上が個人的にまとめた「護られなかった者たちへ」のあらすじである。実際には映画的な伏線や描写が完全に省略されているので、ぜひとも映画本編を見てほしい

続いては作品の感想。

護られなかった者たちへ」の感想

城之内猛の絶叫

この物語では佐藤健演じる利根泰久の主観が最も重要視されている。そのため生活保護の申請に関わった、公務員 三雲忠勝、城之内猛、上崎岳大の姿は必ずしも良くは描かれないし、三雲、城之内に関しては積極的に悪い印象を受ける。

実際殺人の動機は生活保護申請の最前線にいた彼らの言動であった。

しかし、物語の終盤、遠島けいが生活保護を辞退していたことを知った利根が三雲と城之内につめよったさいに城之内が発した以下の台詞によって、この映画は基本的なバランスを取り戻したのだと思う:

「2013年生活保護改正案が国会を通過し、翌年から施行されました。この改正案の主な目的は、申請の厳格化と扶養義務者の支援強化です。生活保護利用率が日本では1%台なのに対し、アメリカ・ヨーロッパでは5から10%。そうした現状に対し国連は日本政府へ貧困問題に対し勧告まで出してきた。そういう国に住んでるんです我々は。君に言ってもわからないだろうけど。」

「震災では多くの人が理不尽に命を奪われた。それに比べれば君たちの境遇には理由がある。そういうことをよく考えてみたらどうですか。他人のせいにばかりせず!」

2013年の生活保護法の改正については厚生労働省のホームページに「生活保護法改正法の概要(pdf)」とう文章がある。

この映画でポイントとなるのは「福祉事務所が必要と認めた場合には、その必要な限度で、扶養義務者に対して報告するよう求めることとする。」という部分だろう。もちろん生活保護受給者がDV等の被害にあっているなどの理由がある場合はそんな馬鹿なことはしないわけだが、遠島けいについてはこれに相当すると判断されたということである。

この台詞をまとめると「法律が悪い」ということになる。少々責任転嫁のように思う人もいるかも知れないが、公務員という立場を鑑みれば極めてまっとうな意見である。

このことについてもう少し考えてみよう。

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「杓子定規」でなくてはならない公務員の苦境

作品中で描かれた三雲たちの姿はなんとも機械的かつ抑制的で全く仕事をする気のないようにも見受けられる。特に、生活保護の申請をできる限り阻止しようと画策し、申請が通ったあともそれを辞退させるためにこそ奔走する。

作品中で三雲たちは頑なに「本人の意志」による申請であることにこだわる。これも申請をなんとか食い止めようとしているようにしか見えないが、その内実は絶妙に異なる力学も働いているだろう。つまり、生活保護を「反社会勢力」に利用されるのを阻止するためである。そういった面倒なことも考慮に入れて善良な市民に対峙しなくてはならないのも公務員の苦しみだろう。悪いのは「反社会勢力」だが、結果的に恨まれるのは公務員である。

なんともひどい話のようにも感じるが、残念ながら寧ろ彼らは公務員として正しく働いている。

つまり、本来公務員は自分の気持ちやその場の状況によってルールを破ったり法律(とその趣旨)に反してはならないのである。

それを「人間らしい」などといって許容すると、公務員はいくらでも好き放題ができてしまう。

実のところ公務員が勝手に法律解釈やその運用を行っている現場を我々は毎日見ている。「自動車の法定速度違反の見過ごし」がそれである。

この国で日々走行している自動車の中で「法定速度」なるものを守っている個体はほとんどいない。したがって警察官はほとんどすべての運転者に対して違反切符を切らなくてはならないのだが、そうはなっていない。

それは「法定速度」よりも「自然な流れ」の方がより交通安全の実現に寄与するからであり、我々の「できる限り速度を出したい」という欲求に合致しているからである。

ただ、結果的に発生するのは「ネズミ捕り」である。それに引っかかると非常に腹が立つとは思うが、「ネズミ捕り」をしている警察官の方が法律を遵守している。本来は褒められるべき行動である。

で、何に腹を立てているのかというと、警察の気分次第で取り締まられてしまうことではないだろうか。

「法定速度」くらいなら「腹を立てる」程度のことで片がつくかも知れないが、それ以外のことだったらどうだろう。公務員が自分の気持ちや勝手な方針で「法律解釈」をし始めたら、我々は夜も寝られない世界で生きることになる。

公務員が「杓子定規」であることは、本来褒められるべきことなのである。「福祉事務所が必要と認めた場合には、その必要な限度で、扶養義務者に対して報告するよう求めることとする。」とあれば、そのようにするのが原理原則である。それを問題だと思うなら、憎むべきは公務員ではなく法律を作った側である。

結局、円山の犯した犯罪は本来断罪すべき人ではなく、アクセス可能な人を断罪した「逆恨みの殺人」ということになってしまうのだろう。コンビニのあり方に不満があるときに、経営者ではなく現場の店員に文句を言っているようなものである。それでは世界は変わらない。ルールを決める場所にいる人々は「俺達じゃなくてよかった」と胸をなでおろすだけである。

ただ、それでもなお、最前線にいた彼らを殺してしまう「人情」を描くことによって「為政者」に対する強烈な皮肉を述べているのが「護られなかった者たちへ」という作品なのだろう。

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犯人は利根泰久の方がよかった

この作品で描きたかったのは震災の痛手と生活保護の実情ということになるだろう。本来なら説教臭くなるようなトピックスだが、それが極めて丁寧に描かれているので素直に心の中に訴えかけてくれる作品となっていると感じた。

その上で、我々映画を見る側に対するサービスとしてのミステリー要素が含まれている

殺人の犯人を利根とミスリードし、円山の過去がわからないようにしておいて、その実殺人犯は円山でしたという流れになっているのだが・・・個人的には犯人は利根の方が良かったような気がしている

これは別にミステリー部分がつまらなかったというわけではなく、それ以外のところがきちんと描かれていたので寧ろミステリー要素が浮いてしまっているように感じてしまったということである。

ミスリードとしての「利根犯人ルート」のままの方が、映画としてまとまりがあったように思う。

こんな事になるのも我々映画を見る側がそういった「サービス要素」がないと映画を見ないことが原因なので、作りてを攻めることはできない。悪いのは俺達である。

そして、このような観点で思い出してしまうのがテレビドラマ「監察医 朝顔」である。

思い出される「監察医 朝顔」

「監察医 朝顔」も「3.11もの」であり、幼少期に母を津波で失った主人公朝顔が、監察医としての日々を過ごしながら、少しずつ過去の悲劇を乗り越えていく物語であった。

この作品においての「サービス要素」は朝顔が監察医として関わることとなる事件や事故である。そんでもってこの「監察医もの」の部分が非常にできが良くてとてもおもしろかった

その上で「3.11」にかかわる問題を極めて丁寧に映画いてくれたおかげで、ともすれば説教臭くなってしまう物語を自然と受け入れることができた。

そして、そのようであるが故に、「監察医もの」の部分が浮いてしまっているのである。別の表現をすると、2つの異なる優れたドラマを同時に消化しているような気分になっていた。

ドラマの制作サイドとしては「3.11」を描くことがもっとも重要な仕事だったと思う。そしてそれをテレビドラマにのせるために「監察医もの」という隠れ蓑を利用したのだと思うのだが、めっちゃ頑張りすぎてどちらも面白かった.

「護られなかった者たちへ」や「監察医 朝顔」は、こういった美しき悲劇の中にあった作品なのだと思う。

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Sifr(シフル)
北国出身横浜在住の30代独り身。日頃は教育関連の仕事をしていますが、暇な時間を使って好きな映画やアニメーションについての記事を書いています。利用したサービスや家電についても少し書いていますが・・・もう崖っぷちです。孤独で死にそうです。でもまだ生きてます。だからもう少しだけ生きてみます。
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